「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第77話

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自キャラ別行動編(仮)
<だから違うと言ってるのに>



 上位精霊を叱り付けているあやめの姿をその目にして、チェストミールはこの少女は本当に一体何者なのかと首を捻っていた。



 むう、これは使役しているなどと言うレベルの話ではないのかもれぬ。
 ワシは目の前で繰り広げられている光景に戦慄を覚えておった。

 エルフの、あやめと言う名の少女が上位精霊を従えているのを、ワシは大掛かりで長時間の準備と大人数で行う特殊な儀式魔法が古の強大な力を宿したマジックアイテムの力によって召喚して、その契約で従わせていると言う可能性もあるのではないかと考えておったのじゃが・・・どうやら違うようじゃな。
 この精霊様方は無理やり従わされているのではなく、自らの御意思でこの少女に従っているというようにしかワシには思えぬ。

 「あたしたちの目的は何? ケンタウロスの殲滅だっけ? 違うでしょ。さっきあたしが言った通り、あたしたちの城をこの人たちが見に来てたからその真意を聞きに来ただけだって解っているよね? それなのに脅すは触っただけで死ぬような魔法を使うわ!」

 「「ごめんなさい(、である)」」

 少女に窘められて恐れ入っているあの姿、とても上位精霊様とは思えぬ。
 そこだけを切り取って見ると、別の存在を我らが上位精霊様と勘違いしたのかも知れぬと疑われるのじゃろうが、しかし先程の強大な魔力と威圧感がそこにいるダオ様をまぎれも無く本物の上位精霊であると証明しておる。
 であるからには、この者は本当に上位精霊様でさえも自らの力で従える、それだけの力を持つ存在であると言う事なのじゃろう。

 半妖精のエルフ族に似た存在、妖精や精霊に最も近い存在としてハイエルフというものがいると聞いた事がある。
 もしやこの娘、そのハイエルフという存在なのか?

 そんなことを考えていたのじゃが、次の瞬間、ワシは更なる驚愕に包まれる事になったのじゃ。

 「まったく。次同じ様な事があったら送還するからね」

 その言葉を聞いた瞬間、シルフ様とダオ様がこともあろうに地に額を地に擦り付けて震えながら謝りだしたのじゃ。

 馬鹿な、いかに強大な力を持って支配をしているとは言え、このような反応を精霊様がするはずがない。
 これではまるで神に対して恐れおののいているようではないか!

 まて、そう言えば先程・・・。

 「チェストミール、この少女、いやこのお方は本当に神の化身なのではないか?」

 「ええ、先程シルフ様が錯乱成された時もそのような事を仰っていましたし」

 ワシの村の若い者が少女にあやまって矢を射掛けた時、たしかシルフ様はこう仰られた。

 私たちのぉ、偉大なる神でありぃ、支配者でもあるぅ、あやめ様にぃ、あやめ様にあろう事か矢を射掛けるなんてぇ!

 そう、確かにシルフ様はあやめと言う少女、いや、あやめ様の事を私たちの偉大なる神であり支配者であると仰られていた。

 「間違いない、あやめ様はエルフの姿を借りてこの世に顕現された神の一柱。そうと解れば今までの事も合点が行くと言うものじゃ」

 最初に報告を受けた一夜にして突如現れたという巨大で堅固な城も、上位精霊様をまるでペットの小動物のように扱っているあの御姿も、あやめ様の怒りを前に震えて頭を下げる精霊様方も、そして自らに矢を射掛けたと言う行為に対しても怒りを表さず、寛大な御心で御許しになられたその大きな懐も全て、彼の御方が神であるというのであれば納得がいくと言うものじゃ。
 
 「フェルディナント、テオドル、神の御前じゃ。いかにあやめ様の背が御小さいとは言え、今のように上から見下ろすような姿勢は恐れ多い。今からではもう遅いかも知れぬが、あやめ様の御怒りが我らケンタウロスに向かぬようワシらもダオ様方のように平伏するのじゃ」

 「確かに。お前たち、神の御前だ。見下ろすような失礼な態度をとり続けていてはいかに寛大な御方であったとしても何時その御怒りに触れるか解らん。上位精霊様たちに倣い、我らもあやめ様にひれ伏し、恭順を示すのだ」

 「「「ハッ!」」」

 フェルディナントの言葉を合図に、ワシら10人のケンタウロスはあやめ様に向かって平伏し、恭順の姿勢をとったのじゃった。


 ■


 「お騒がせしたわね。それじゃあケンタウロスのお爺ちゃん、あらため・・・てぇぇぇ!?」

 一体何事?
 振り返ると先程まで私を見下ろすように立っていたケンタウロスたちがみんな平伏していた。

 「ちょっちょっと、どうしちゃったのよ? お爺ちゃんたち。いきなりそんな格好して」

 「あやめ様、今までのご無礼、平に御容赦を」

 慌てて声をかけたけど、帰って来たのはこの言葉。
 なに? 私がシルフィーたちを叱り付けていたから怖くなったの?
 私、そんなに恐ろしかった?

 そう思ってシルフィーたちの方に目を向ける。
 すると、

 「ふふ〜ん、こいつらもやっとあやめ様の偉大さが解ったみたいね」

 シルフィーは関心関心とケンタウロスたちに向かって偉そうに胸を張りながら首をたてに振っていた。

 「うむ、あやめ様の御前では皆、そのような態度を取るのが正しい、のである」

 そしてザイルまでこんな事を言い出す始末。

 いや、そんな訳ないでしょ!
 それにこれじゃあまるで・・・。

 「あやめ様、知らぬ事とは言え神であらせられるあなた様に対してこれまでに行った数々の失礼な振る舞い、まことに申し訳ありません。お怒りであるとは重々承知しておりますが、物知らぬ我らを哀れと思い、平にご容赦くださいますよう、よろしくお願いいたします」

 「神ぃ!?」

 お爺ちゃんケンタウロスに続いて、今度は隣にいる金色の鬣のケンタウロスが頭も上げずにこんな事をのたまわった。

 またなの? また神扱いなの?
 なに? この世界は強い力を持った存在が現れたら、とりあえず全て神様認定すると言う決まりでもあるの?
 カロッサさんに引き続いて、ケンタウロスにまで神様認定された私は途方にくれる。

 そう言えばシャイナもライスターさんに初めは女神様だと勘違いされたって言ってたっけ・・・。
 得体の知れないもの=神様と考えるのがこの世界の常識なんだろうか?
 う〜ん、ちょっと突飛かも知れないけど今までの例を参考にして考えると、案外当たってるのかもしれないわね、この考察。

 そんな事を考えながら現実逃避していたんだけど、噂をすれば影。

 「マスター、聞こえますか?」

 たった今思考の端に浮かんだシャイナから<メッセージ/伝言>が飛んできた。
 そう言えばさっき「シミズくんが見つかってしまって困ってます。どうしよう、マスター助けて!」って言う感じの相談があったっけ。
 思いついた方法を教えておいたけど、もしかしたら失敗しちゃったかな?

 「お爺ちゃんたち、ちょっと待ってね」

 目の前の頭の痛い光景から逃避する為に、こうして私はシャイナとの会話に集中するのだった。


 ■


 「さて、現実逃避はこれくらいにしてっと・・・どうしたもんかなぁ、これ」

 少し長めにシャイナと話をしていた気がするけど、その間もケンタウロスたちは姿勢を崩すことなく平伏している。

 「ふふ〜ん、関心関心」

 ぺしぺし。

 あっこらシルフィー、黒い子の頭をぺしぺし叩かないの。
 でも、ホントどうしよう。
 いったいどうして私の事を神様だと勘違いしたのかしら?

 「ケンタウロスのお爺ちゃん、言っておくけどあたしは神様なんかじゃないよ。ふぅ。やれやれ、いったいどうしてそんな勘違いをしちゃったのやら」

 「今更御隠しにならなくても、ワシらには解っております。上位精霊様を従えるその御姿、寛大な御心、そして何よりそこの居られます、シルフ様があなた様の事を偉大なる神であると先程申されたではないですか」

 「シルフィーが?」

 ビクッ! ぎぎぎぎぎぎっ。

 お爺ちゃんケンタウロスの言葉に答えた私の声色を聞いて、一瞬小さく飛び跳ねた後、油の切れたロボットのようにぎこちなくこちらを振り向くシルフィー。
 そう言えば、確かにさっき切れた時にそんな事を言っていたわよね。

 そうか、お前が元凶か。
 後でお仕置き決定!
 さっきのお説教の前に失敗だから、送還だけは勘弁してあげるけどね。

 とにかくこの勘違いだけは先に解いておかないといけないわね。
 適当に流すとカロッサさんの時と同じ展開になりそうだし。

 「そうか、シルフィーのせいか。まぁ、彼女へのお仕置きは後にするとして(ヒイッ!)最初にその誤解を解いておくとするわね。もう一度言うけど、私は神じゃない。ただのエルフであるとも言わないけど、少なくとも神と言われる空想上の生き物ではないよ」

 「しかし、上位精霊様をこのように従えて」

 うんうん、これが私が神であると言う根拠なんだろうね。
 だからそこをつぶす。

 「上位精霊を支配下に置くなんて私がいた場所ではそれ程珍しい話ではなかったわよ。この大陸では凄く大変な事と思われているみたいだけど世界は広いの。普通に闊歩しているモンスターの中にはこのザイル、ダオの事ね。ザイルより強いモンスターが徘徊する場所もあるのよ。あたしたちはそこから来たの。そこに住む人たちにあたしが神だなんて言って見なさい、大笑いされるから」

 「ではあくまで神ではないと仰られるのですか?」

 う〜ん、こう言ってもまだ神だと考えているのか。

 「うん、神じゃないよ。だって、私より強い存在なんてごろごろいるし、うちの城にだって数人いるしね。あたしが神なら、あの子たちはなんなのよって話よね」

 「確かにシャイナ様やまるん様はあやめ様より御強い、であるな」

 「あやめ様、あやめ様、もしかしてアルフィン様もあやめ様より御強いのですか?」

 アルフィンかぁ、あの子はファーストキャラでマーチャント系に振った量が少なめだから確かにあやめより戦闘スキルは多いわね。

 「そうね。それにメルヴァたちも私より強いわよ。彼女たちはあたしと違って戦闘特化ビルドだから。地下第3階層にいる二人にいたっては、私がかかって行ったとしても瞬殺される位強いわよ」

 「皆さん、御強いんですねぇ」

 あやめなんて所詮はマーチャントビルドキャラだからね。
 この世界の住人からしたら神に見えるかもだけど、ユグドラシル視点で言えば本当に雑魚だろう。

 「なっ、まさか」

 そんな私たちの会話を聞いてあまりに驚いたのか、ケンタウロスたちがひれ伏した頭を上げて、こちらに驚愕の視線を送っていた。
 お爺ちゃんにいたっては、口を大きく開いて呆然としてるし。
 しかし、ちょっと驚きすぎじゃないかなぁ。

 「じょっ上位精霊様を従えるあなた様より強い御方がそんなにも・・・」

 「ええ、いるわよ。上位精霊って言ってもザイルじゃシャイナの前に立ったら一太刀で両断されるんじゃないかな? そういう世界もあるって事。因みにそんなシャイナだって世界最強ってわけじゃない。彼女より強い存在はそれこそ何十人何百人といたわよ、あそこには」

 戦闘系ギルドの人達にビルド構築を手伝ってもらったけど、強力な上位職につくアイテム取りまでは殆ど頼めなかったからね。
 かろうじて上位職と呼ばれるものにはなれたけど、戦闘系ギルドに所属していたフレンドたちの殆どは上位職の中でも特に強い職についていたからねぇ、その人たちからすればシャイナなんて恐るるに足りないんじゃないかな?
 まぁ、それ以前に私のプレイヤースキルが足らないから、例え同等の上位職に就けていたとしても、やっぱり雑魚扱いだったろうけど。

 そんな人たちと同等なのは重課金&ゲーム内マネーでかき集めたり、常連の戦闘ギルドさんたちのギルド武器作成時に報酬として貰ったレアアイテムで作られた装備くらいじゃないかな?
 ユニークはもちろん、ゴッズクラスの武器や防具も結構そろってるしね。

 閑話休題。

 私が知っているだけでもそれだけいるんだから、実際は何百人どころか何千人単位かもしれない。
 それくらい私たちはユグドラシル内では当たり前の存在でしかなかったのよね。

 「神の国か・・・」

 「だから違うって。みんな普通の人たち。ただ、そこを徘徊するモンスターが強くて、それに対抗する為に強くなったというだけなの。あなたたちだって、そこで生まれていたらもっと強くなっていたかもよ」

 まぁ、レベル限界開放クエが受けられないだろうから私たちみたいになれるかどうか微妙ではあるけどね。

 実を言うとこれがこの世界の人たちがあまり強くない理由の一つなんじゃないかと私は考えているの。

 レベル限界。

 ユグドラシルだってサービス開始当初から100レベルキャプだったわけじゃない。
 徐々に開放されてサービス終了時は100だったけど、最初はもっと低かった。
 あの世界でもレベル限界突破クエが実装されて初めて高レベルになれたのだ。

 この世界はレベル限界突破クエなんてご都合主義なものなんか存在する訳がないのだから、最初に設定された上限以上強くなれないというのが高レベルがいない理由の一つなんじゃないだろうか?
 まっ、あくまで私の予想なんだけどね。

 「その証拠に私だって最初に冒険者になった時はあなたたちより弱かったんだから」

 「ええっ!? あやめ様、あやめ様、本当なのですか?」

 「うん、最初はあたしも1レベルだったもん。あの頃のあたしなら、このケンタウロスさんたちの前に立ったらプチって殺されてたと思うよ」

 まぁ、1〜2日でこのケンタウロスたちのレベルは追い越してたけどね。
 心の中でそう呟く。
 でも事実である事には変わらないのだから嘘を言っているわけでもないのだ。

 「解った? 神様なら生まれた時から強いはずでしょ。でもあたしは最初は弱かった。ここから見ても、あたしが神じゃないってことは解ってもらえるでしょ」

 因みにメルヴァたちは生まれた時から強い。
 そう考えると彼女たちNPCは神を名乗ってもおかしくないのかな?

 「むぅ、解りました。あやめ様が神ではないという御話、納得する事にいたします」

 「そう、良かった。神様でも無いのに神様扱いされても困るのよね。こんな風にひれ伏されて喜ぶ趣味も無いし」

 裕福層とは言え所詮元一般人でしかない私にはそんな立場は正直荷が重い。
 会社もトップとは言えデザイン系だったからそこまで礼儀にうるさくなかったし、どちらかと言うとお得意様にぺこぺこと頭を下げる方が多かったくらいだ。
 そんな私だから、頭を下げられるとちょっと照れくさいのよね。

 「でもでも、イングウェンザー城ではみんなひれ伏していますよね」

 「おいそこ。よけいな事、言わない。あれは神様だからひれ伏してるわけじゃないでしょ」

 あれはあくまで私たちが創造主であり支配者だからだ。
 国の王様や権力者に国民がひれ伏すのと同じ事。
 私としてはやめさせたいんだけど、やめてくれないから仕方なく公の時だけ許してるだけなんだから。

 「やはりそのようなお立場の、」

 「ああ、めんどくさい。シルフィー、これからしばらくの間、口を開くの禁止ね。それからケンタウロスのお爺ちゃん、その体勢だと話し辛いから一度起き上がって。」

 ケンタウロスたちはまた頭を下げてこちらを見ないで話してるから、こちらからすると顔色が読めなくてやりづらいのよね。

 「しかし」
 
 「しかしも案山子も御菓子も無いの。みなの者、面を上げい! なんてやりたくないからとにかく立って。あと後ろの人達も。立たないなら強制的に立たすわよ」

 ちょっと脅かす感じで無理やりケンタウロスたちを立ち上がらせる。
 体型的に私を見下ろす事になるのがよほど嫌なのか、中には上半身をお辞儀でもするように折るという無駄な足掻きをしようとした人もいたけど、それも許さずにしっかりと立たせた。

 そして私は両手を腰に当て、胸を張ってフフ〜ンと偉そうに笑いながら、

 「さぁ、話し合いを始めるわよ」

 そう宣言した。



 話し合いと言っても実は特にする事がなかったりする。
 これまでのケンタウロスたちの行動から私たちと敵対する気が無いのは解っていたし、それならば私としても特に何かを言う事はなかったからね。
 それなのになぜわざわざ話し合いを再開させたかと言うと、私たちもケンタウロスたちと争う気は無いよと教えてあげる為だったりする。

 だってどう考えても怯えているもの、この子たち。

 「あなたたちがあたしたちと敵対するつもりがないのは解ったわ。それならあたしたちとしても別に干渉する気も無いし、相互不干渉と言う事でいいよね? はい、決まり! これでオールオッケー、全て丸く収まったわね、良かった良かった」

 だから私はそう一気にまくし立てて、強引に話を閉めることにした。
 下手に条件を付き合わせようとすれば向こうは怖がって全て受け入れると言いそうだからね。
 一方的な条約なんて侵略と変わらないし、後々遺恨を残すだけだから無理にでも双方同等の立場でお互いこれからは干渉もしないと確認して終わらせてしまうのが賢いやり方だろう。

 よし、これで面倒ごとは終了! あやめの姿なら遊んでいてもメルヴァに怒られないだろうし、早く城に帰ろう。
 図書館に行っていっぱい漫画を借りてきて部屋に篭って読むんだ。
 そんな風に皮算用をしていたんだけど、残念ながら現実はそう簡単に問屋がおろしてはくれなかった。

 「しばし、しばしお待ちを。少しだけワシらに話し合いをする時間を下さい」

 勢いで押し切ろうと思ったのに、お爺ちゃんがこんな事を私に言ってきた。

 えぇ〜、いいじゃない、これで手打ちで。
 本音ではそう言いたいけど、彼らの顔を見る限り流石にそんな訳には行きそうもない。

 「いいけど・・・何か話し合う事、あるの?」

 「はい。ほんの、ほんのしばしの間だけです、お時間を下され」

 仕方ないか。
 流石にさっきのじゃ一方的すぎたしね。

 「いいよ。少しだけ待ってあげる」

 「ありがとうございます、あやめ様。それでは失礼して。フェルディナント、テオドル、ちと話がある、こちらへ」

 そう言うと、おじいちゃんは金色と黒のケンタウロスを連れて話し合いに行ってしまった。
 あの二人、目立ってるなぁと思ったけどやっぱり有力者だったみたいだね。
 話し合いに他のケンタウロスは加わっていないみたいだもの。



 数分後、おじいちゃんは金と黒を引き連れて帰って来た。
 そして、

 「あやめ様、不躾なお願いで申し訳ないのですが、我らケンタウロスをあやめ様の庇護下においていただけないでしょうか?」

 そう言ってケンタウロスたちは一斉に跪いた。

 「ほへっ?」

 なに? なぜそんな話に?

 「ちょっと待ってよ。なぜいきなりそんな話になるのよ。あたしたちは別にあなたたちの脅威にならないのは解ったんでしょ、なら相互不干渉でいいじゃない」

 「はい、あやめ様がワシらに対して敵意がないのは承知しております。ですが他の人族は違います。縄張りが隣接している以上、何時闘いになるか解りませぬ。ワシらとて人族との戦いとなったとしても負けるつもりはありませんが人族は多い。こちらもそれ相応の被害を受ける事になるでしょう」

 まぁ、そうだろうね。
 見た感じ帝国が攻めてきたとして、ケンタウロス一体で一度に5〜6人くらいは相手にできそうだし、たとえそれ以上を相手にする事になったとしても負けて殺されてしまう事はなさそうだ。 だけど、攻めてくるとしたら万単位で攻めてくるはずなのよね。
 そうなれば話は変わってくるし、被害は馬鹿にならないと考えるのも解るわ。

 「されど、あやめ様の庇護下にあれば人族としても我らに手出しをするのを躊躇するのではないかとワシは愚考するのです。ワシらと違い、あやめ様ならば人族が例え数万で攻めてきたとしても軽く蹴散らすだけの力を持っていると御見受けします。その上そのあやめ様よりも強い御仁があやめ様の城には存在するとの事。ならば我らとしてはあやめ様の庇護下に入る事によって種の反映が約束されると確信しているのです」

 なるほど、確かにカロッサさんの話からすると帝国はケンタウロスを警戒しているみたいだった。
 今は隣接している国とのいざこざがあってこちらに戦力を回す事はできないみたいだけど、もしどちら彼の国が相手に決定的な打撃を与えるか、いやそこまで行かなくても講和条約でも締結されれば人族の脅威として兵力をこちらに回す事が未来永劫無いとは言えないのよね。

 何より法国とか言う、エルフやドワーフさえ許容しない心の狭い国まであると言う話だし。

 「う〜ん、そうね。解ったわ、ならあんたたちがあたしの下に付く事を許可してあげる」

 「あやめ様、あやめ様、アルフィン様に御許可を取らずにそんな事を決めてしまってもいいのですか?」

 私が偉そうに許可を出してしまったのを見て、シルフィーが慌てて声をかけてきた。
 横ではザイルまで心配そうにこちらの顔を覗き込んでいる。
 でも問題ないのよね。
 だって、これはあやめが決めた事じゃなく私が決めた事で、私が決めた事は6人の総意になるのだから。

 「ああ、心配しなくても大丈夫。アルフィンはそんな細かい事いわないから。それに帝国がケンタウロス討伐を決めたとしても、いざとなれば私が管理してる地下第4階層の森に移住させたりすればいいんだし」

 「そうですか。あやめ様がそういうなら問題ないですね。聞いたわねケンタウロスたち、今日からあんたたちはあやめ様の”げぼく”になったんだからしっかりと尽くすのよ!」

 下僕って、せめてシモベか手下と言いなさい。
 両拳を振り上げながら偉そうにケンタウロスたちに向かってそう宣言するシルフィーを見ながら私は苦笑いを浮かべる。
 あくまで庇護下に入れるだけで手下にするわけじゃないんだけどなぁ。

 「はい、承知しておりますシルフ様。我らケンタウロスはあやめ様を”神と崇め”力の限りお仕えする事を誓います」

 なっ!?

 「だっだからぁ、あたしは神様じゃないって言ってるでしょ! まったく。見放すわよ」

 「おお、これは失言でした。申し訳ございません。”偉大なる御方”として力の限りお仕えする事を誓います」

 「うん、それならよし」

 その言葉に満足し、私は鷹揚に頷いた。

 しかし私は知らなかった。
 亜人たちにとって、この”偉大なる御方”と言うのも神を示す言葉だと言う事を。
 それを後に知らされて呆然とするのはまた別の話。

 この後、私はチェストミールと言うケンタウロスのお爺ちゃんが長をしている部落に行き、先行したケンタウロスによって呼び戻されたもう一人の族長であるオフェリア(女性のケンタウロスはケンタウレと言うらしい)を紹介され、それから数日かけて4部族の部落を巡って忠誠を受けて回る事となった。

 そしてある程度のケンタウロスたちと仲良くなった頃。

 「マスター聞こえますか? アルフィンです」

 アルフィンからちょっと切羽詰ったような声の<メッセージ/伝言>が飛んできた。

 「なに? どうしたの? 何か重大事件?」

 その声に驚いて聞き返したんだけど、この後のアルフィンの言葉は私の考えうる最悪の予想を遥かに超えるほど、驚くべき物だった。

 「はい、まるんから救援要請です。詳しい話は直接御伝えするので、マスターには私の体を使って頂き、シャイナと共にご足労願いますとの連絡がまるんから入りました」

 えぇ〜、まるんから!?
 まるんって、私たち6人の中ではシャイナと並んで最大戦力の一人なのよ。
 そのまるんが救援要請って・・・。

 「解ったわ。こちらはシルフィーに任せてすぐに帰還します。城に帰りしだいすぐに向かうから、シャイナには城で準備を整えて待機しておいてと伝えて」

 「はい、解りました。お帰りをお待ちしております」

 こうしてアルフィンとの<メッセージ/伝言>は切れた。

 一体何が起こったんだろう?
 今まで集めた情報からすると、この世界の者たちではまるんの脅威になる者がいるはずが無いのに、回復の要のアルフィンと前衛の要のシャイナに救援要請だなんて。
 もしかして転移してきた他のプレイヤーからの襲撃があったとか?
 どうしよう。
 まるん、大丈夫かしら?

 何が起こっているのか解らず、胸が不安でいっぱいになるあやめだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 最初のチェストミールの部分は本来先週書く筈だったのですが、時間がなかったので今週に移動しています。

 さて、オーバーロードを読んでいて神視点で物語を読んでいる皆さんは主人公が考える限界突破クエがないから強いキャラがいないというのが間違っているのを知っていますよね。
 でも検証する事ができない主人公はこう考えています。
 ただここはゲーム世界ではなく上限が全員一律ではないというのも知っているので、この考えが絶対に正しいと考えているわけでも無いんですけどね。

 そんな人たちでも限界突破クエをクリアすればレベル上限が上がるのでは? なんて考えているだけです。

 因みにこのレベル限界突破と言う物自体、ユグドラシルにあると明言されていないので私のオリジナル設定です。
 でも、いまどきMMOどころかゲームの進行スピードを運営が調整する為にパワプロにまで設定されるほどメジャーな物になっているのであるんじゃないかな? と私は考えて今回の話に盛り込みました。

 次に今回、あやめまで神様認定されました。
 ホントこの世界の人たちは神様認定が好きです。
 原作でもプレイヤーは神様扱いされてるし、web版ではアインズ様が2度も神様扱いされています。(本人は両方とも同じ集団の仲間だと勘違いしていましたが)
 だから実際そういう土壌があるのでは? なんて私は考えているので、これからもこのような事はあるでしょう。

 でも絶対にアルフィンたちは認めないんですけどねw

 時間軸が少しおかしかったので72話を少し修正しました。
 入れ忘れていた部分があったので76話も少し修正しました。


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